日本の産業界が総力結集:国産AI開発の新会社が誕生
2026年4月、日本のビジネス史に残るかもしれない一手が打たれた。ソフトバンク・NEC・ソニーグループ・ホンダの4社を中心に、国産人工知能(AI)を開発する新会社「日本AI基盤モデル開発」が設立された。通信・IT・電機・自動車という日本を代表する異業種企業が手を結び、米国・中国が席巻する生成AI市場への巻き返しを図る。この動きは、単なる企業連合にとどまらず、日本の産業競争力の将来を左右する国家的プロジェクトとして注目されている。
新会社「日本AI基盤モデル開発」の全貌
設立の経緯と出資構造
ソフトバンク、NEC、ホンダ、ソニーグループの4社は2026年4月、国産人工知能(AI)を開発する新会社「日本AI基盤モデル開発」を設立した。米中企業が先行する生成AI市場において、国内企業が結集して巻き返しを図る。
新会社「日本AI基盤モデル開発」は、ソフトバンク、NEC、ホンダ、ソニーグループの4社がそれぞれ十数%を出資する主要株主となり、経営責任を共有する事業体として発足した。社長にはソフトバンクで国産生成AIの開発を指揮してきた幹部が就任し、国内に分散していた約100人規模の高度なAI開発技術者を集約する。
中核4社に加えて、日本製鉄や三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクも少数株主として出資に加わった。AI開発企業のプリファードネットワークス(PFN)も開発に参画しており、さらに複数の企業が追加出資に向けた協議を進めている。
各社の役割分担
新会社では、出資各社がそれぞれの強みを活かした明確な役割分担が設けられている。
- ソフトバンク・NEC:AIの頭脳となる大規模な基盤モデルの構築を主導
- ホンダ:完成した基盤モデルを自動車の自動運転システムや汎用ロボットに実装
- ソニーグループ:ゲームなどのエンターテインメント・半導体領域への実装を担当
- プリファードネットワークス(PFN):技術面での連携・開発支援
- 3メガバンク・日本製鉄・神戸製鋼所:少数株主として資本参加
技術的な目標と開発計画
新会社は2020年代に大規模なAIモデルを作る計画だ。AIの性能の指標とされる「パラメーター」では、国内最大規模の1兆程度をめざす。文字に加えて画像や映像、音声など種類の異なる情報を扱う能力も高める。30年度までに機械やロボットとも連携できるようにする。製造現場へのAI導入を後押しする。
フィジカルAIとは何か?なぜ今重要なのか
今回の新会社が最も注力する「フィジカルAI(Physical AI)」という概念は、日本の製造業が直面する課題を解決する鍵として注目されている。
日本の産業の生産性向上に向けて、サービス業などへロボットの導入を進めていくことが期待されている。こうした分野は幅広く多様な動作、予測が難しい事象、人との接近を伴う業務への対応が求められ、ロボット導入に向けて、ロボティクス分野における生成AI基盤モデルの開発・実装が非常に重要だ。
今回の新会社設立は、経済産業省が推進する国産AI基盤モデル開発に向けた国家支援策と連動している。政府は2026年度からの5年間で約1兆円規模の支援枠を設け、1兆パラメーター級の大規模言語モデル開発を後押しする。インターネット上の言語データに依存する汎用AIにとどまらず、日本の製造業が蓄積してきた豊富な産業データを学習させ、ロボットや工場設備を自律制御する「フィジカルAI」の確立を目標に掲げる。
政府・NEDOの支援体制:1兆円規模の国家戦略
大規模なAIモデルの開発は米中が先行する。日本の大企業でも米国のオープンAIやアンソロピック、中国のアリババ集団などの基盤モデルの活用が広がる。AIが設備の稼働状況など機微な情報を扱う場面も増え、学習データの国外流出も懸念されている。
こうした背景から、政府は国産AI開発を強力に後押しする姿勢を明確にしている。経済産業省は同事業などを通じ、AI開発の促進へ今後5年で1兆円規模の支援を予定する。新会社は支援先の有力候補になる。
NEDOは「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」の公募も進めており、フィジカルAIの実現によって製造業等の生産性向上やエネルギー消費の効率化が期待され、現場データを守りながら将来も安心して活用できる国産のAIマルチモーダル基盤モデルの必要性が高まることを踏まえ、AIロボット・フィジカルAIの開発基盤となる国産AI基盤モデルを開発し、日本が強みを持つ製造業等の産業競争力強化やGXの実現を目指す。
また、NEDOによるロボティクス向けデータ基盤整備事業も並行して進んでいる。採択された研究開発テーマでは、現実環境から多様かつ高品質なロボット稼働データの収集・整備、収集データを用いた汎用性の高い基盤モデルの開発、ユースケースに応じた個別モデルの開発と社会実装の3段階を一体的に実施する。さらに、持続的な開発環境を支えるデータエコシステムの構築、AIロボティクス分野を支える若手人材の育成も並行して推進する。
ビジネス視点:企業・経営者にとっての意味
今回の新会社設立は、企業経営に以下の点で大きな意味を持つ。
- 単独開発の限界を超える連合体の形成:通信、IT、自動車、電機を代表する国内企業群が技術と資本を持ち寄り、日本独自の強みを生かしたAI基盤を整備する。生成AIの開発競争では、オープンAIやグーグルなどの米国企業や中国企業が巨額の資本を投じ、市場を牽引している。国内企業が単独で開発を進める形では、膨大な計算資源の確保やトップクラスの人材獲得で劣勢に立たされる懸念があった。
- 産業データの国内保全:海外AIへの依存が深まるほど、工場の生産データや設備の稼働情報など機密性の高い産業情報が国外に流出するリスクが高まる。国産基盤モデルを持つことは、データ主権の確保という観点から経営上の重要課題となっている。
- 2030年に向けた製造現場のAI化:30年度までにロボット・機械と連携できるAIを実現するというロードマップは、製造業全体のDX・自動化投資の方向性を示すものとして、サプライヤーや周辺産業にも大きな影響を与える。
ソフトバンクは国産モデルの開発と並行し、情報処理の拠点となるデータセンターも整備する。25年にシャープから取得した堺市の旧テレビ向け液晶パネル工場を国産AIの中核拠点として整備する。
消費者・生活者視点:私たちの生活への影響
フィジカルAIの実用化は、企業の工場や研究室にとどまらず、日常生活にも直接影響する可能性がある。
- ホームロボットの実現:汎用ロボット向けAIの開発が進めば、家事支援や介護補助ロボットの実用化が加速する可能性がある。
- 自動運転・モビリティの進化:ホンダが担う自動運転分野への応用により、より安全で便利な移動手段の実現が期待される。
- エンターテインメントの変革:ソニーグループはゲーム・エンターテインメント分野への実装を担うため、ゲームやコンテンツ体験が大きく変わる可能性がある。
- 物価・サービスへの間接的恩恵:製造現場や物流へのAI導入が進めば、生産性向上によるコスト削減が消費者価格の安定に寄与する可能性がある。
専門家・業界関係者の見解
AIロボット協会(AIRoA)をはじめとする業界団体も、フィジカルAIの重要性を強調している。産業における生成AIモデルを活用したロボットの社会実装の可能性を検証することが主たる目的であり、短期的な実証成果にとどまらず、長期的には日本発の産業特化型AIエコシステムの構築とロボット産業全体の底上げへの貢献が志されている。
本事業の特徴は、生成AIに関する最先端の知見と技術力を有する企業・研究機関が集結して推進する点であり、各社が保有する大規模学習・マルチモーダルデータ処理・ロボットシステムに関する技術などを統合し、国際的競争力の高いプラットフォームの構築を目指している。
国際比較:海外でのフィジカルAI開発の動き
フィジカルAIの開発競争は日本だけの話ではない。米国では以下のような動きが活発化している。
- NVIDIA(米国):物理シミュレーション基盤「Omniverse」を活用したロボット向けAI開発を推進。NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは「フィジカルAIは次の巨大な波」と公言している。
- Google DeepMind(米国):汎用ロボット基盤モデル「RT-2」などを開発し、言語命令でロボットを制御する研究をリード。
- Figure AI・1X Technologies(米国・ノルウェー):ヒューマノイドロボット向けAIの開発に巨額の資金が集まっている。
- 中国:国家主導でロボット産業への大規模投資を実施。国産AI基盤モデルとロボット産業の融合を国策として推進している。
日本の新会社設立は、こうしたグローバルな競争に対して日本勢が組織的に対抗する姿勢を示すものといえる。製造業における長年の産業データと技術蓄積は、日本の潜在的な競争優位性として、海外からも注目されている。
今後の展望:注目すべきポイント
今後、「日本AI基盤モデル開発」の動向として以下の点が注目される。
- NEDOへの申請・採択結果(2026年中):新会社は「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」への応募を予定しており、採択されるかどうかが資金調達の重要なマイルストーンとなる。
- 堺市データセンターの稼働状況:ソフトバンクが整備中の旧シャープ工場跡地の国産AI中核拠点が、いつ本格稼働するかに注目が集まる。
- 追加出資企業の動向:複数の企業が追加出資に向けた協議を進めているとされ、連合体の拡大が見込まれる。参加企業が増えるほど、基盤モデルの適用範囲も広がる。
- パラメーター1兆規模モデルの開発進捗(2020年代中):GPT-4に匹敵する規模の国産AIモデルの実現が日本AI開発の象徴的マイルストーンとなる。
- 2030年のフィジカルAI社会実装:製造現場・ロボット・自動運転への実用化が計画される2030年度を目標に、どの程度のスピードで開発が進むかが問われる。
まとめ:この記事の3つのポイント
- 📌 日本の産業界が総結集:ソフトバンク・NEC・ソニー・ホンダなど計9社超が出資する新会社「日本AI基盤モデル開発」が2026年4月に発足。国内最大規模のパラメーター1兆級AI基盤モデルを目指す。
- 📌 官民1兆円規模の国家プロジェクト:経済産業省・NEDOが5年間で1兆円規模の支援を予定し、新会社は有力な支援先候補。フィジカルAIの確立で日本の製造業DXを加速させる狙い。
- 📌 ロボット・自動運転・エンタメまで広がる応用:2030年度までにロボット・機械と連携するAIの社会実装を目標とし、私たちの働き方や生活様式を大きく変える可能性がある。
参考情報
- 日本経済新聞「ソフトバンクが国産AIの新会社設立、NECやホンダなど8社出資」
- ビジネス+IT「ソフトバンク、NEC、ソニー、ホンダが国産AI開発の新会社『日本AI基盤モデル開発』」
- Yahoo!ニュース(朝日新聞)「国産AI開発めざし新会社設立 ソフトバンクやNECなど4社中心」
- Yahoo!ニュース(FNNプライムオンライン)「国産AI開発の新会社設立 ソフトバンク・NEC・ホンダ・ソニーグループの4社中心に」
- NEDO「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」公募情報
- NEDO「ロボティクス分野の生成AI基盤モデルの開発に有効なデータプラットフォームの研究開発に着手」
- PRTimes「一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)、NEDOの採択を受け研究開発に着手」
- NHKニュース「ソフトバンク NECやホンダなどと新会社設立 '国産AIを開発'」
著者プロフィール
伊東雄歩(いとうゆうほ) / ゆぽゆぽ
株式会社ウォーカー代表取締役 / MENSA会員 / NLPマスタープラクティショナー
IQ130超のADHD経営者。「社会不適合」ゆえに会社員を2年で挫折し、フリーランスを経由せずいきなり起業。訴訟4回、2000万円の損失、役員の裏切り、オフショア開発の地獄を乗り越え10年生き残る。心理学・教育学に1000万円投資し、独自の「成長力学」を確立。現在は生成AI教育に注力し、「3年を2日に変える」AIプログラミング2Daysキャンプを全国展開中。AIフレンズコミュニティを運営。
夢は「世界征服」——世界の常識を変え、新しい価値観を提示すること。
