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テクノロジー

国産ロボット大手3社がフィジカルAIで連合、次の産業革命へ

川崎重工業・ファナック・安川電機の国内ロボット大手3社が、触覚データを含む「VTLAモデル」基盤データセットの共同構築を開始。NEDOから最大20億円の支援を受け、フィジカルAIの製造現場への社会実装を加速。富士通・NVIDIAも加わり、日本のロボティクス産業が新たな局面を迎えている。

競合3社が手を結んだ「異例の協調体制」——日本のロボット産業が歴史的転換点に

産業用ロボットの世界市場で長年しのぎを削ってきた川崎重工業・ファナック・安川電機が、互いの競合関係を超えて一つのプロジェクトに集結した。現実世界の情報をAIが認識・判断し、物理的な動作として実行する「フィジカルAI(Physical AI)」の製造現場への社会実装を加速するためだ。この異例の協調体制は、日本の製造業の未来を左右する歴史的な転換点として、国内外から大きな注目を集めている。

折しも、少子高齢化が進む日本では労働力不足と熟練技能者の減少が製造業の深刻な課題となっており、フィジカルAIへの期待は産業界全体で急速に高まっている。本稿では、この巨大プロジェクトの全体像と、それが企業・社会・産業構造に与えるインパクトを多角的に分析する。

プロジェクトの全体像:VTLAモデルとは何か

NEDO採択プロジェクト:視覚・触覚・言語・動作を統合する基盤モデル

川崎重工業、大阪大学、ファナック、フィンガービジョン(FingerVision)、安川電機の5者は、経済産業省・NEDOが公募した補助事業「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/データエコシステムの構築等に関する研究開発(GENIAC)」に採択された。5者は「製造現場視触覚データ収集によるVTLA基盤モデルに向けたデータセットの構築」を提案し、採択されている。

本プロジェクトは2026年8月から2027年7月までの1年間を対象期間とし、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から最大20億円の支援を受けて実施される。川崎重工業を代表企業とし、ファナック、安川電機といった産業用ロボットの競合大手が参画する異例の協調体制が組まれた。さらに、国立大学法人大阪大学、触覚センサー技術を有するスタートアップのFingerVision、AI基盤技術の設計を担当するABEJAが加わり、産学連携で研究開発を進める。

プロジェクトの中核を成すのが「VTLAモデル」と呼ばれる基盤モデルの開発だ。中核となる取り組みは、カメラなどから得られる視覚(Vision)、指先のセンサーによる触覚(Tactile)、人間の指示を理解する言語(Language)、ロボットの動作(Action)の各情報を統合的に処理する「VTLAモデル」の基盤構築である。初年度に製造現場から5000時間分の映像、触覚、動作データを収集し、このVTLAモデルに最適化したデータセットを設計・蓄積する。

なぜ「触覚データ」が鍵を握るのか

これまでロボットの動作設計は各メーカーの規格や現場ごとの個別開発に依存しており、人間の感覚を要する繊細な作業の自動化や、多品種少量生産への柔軟な対応が技術的な障壁となっていた。従来の産業用ロボットは視覚情報(カメラ映像)に頼った自動化が主流だったが、例えば食品の柔らかさを感じながらつかむ、精密部品を適切な力加減で組み付けるといった「人間の手の感覚」を要する作業は、自動化が極めて困難だった。触覚データをAIに学習させることで、こうした繊細な作業の自動化が現実のものとなる可能性がある。

データエコシステムの共通化による産業全体への波及

今回のプロジェクトにより、3社が共同でデータ仕様や収集基盤を共通化することで、特定のハードウェアに依存しない汎用的なデータエコシステムが形成される。これにより、ティーチングと呼ばれる従来の手動プログラム入力作業を大幅に削減し、自然言語での指示や未経験の環境にも適応可能なフィジカルAIの社会実装が加速する。

川崎重工業は、ファナックや安川電機などと連携し、現実世界のロボットや機械を自律的に制御する「フィジカルAI」に使用できるデータセットの構築に乗り出す。自動車や食品など幅広い業種の製造現場でデータを集め、AIで使えるようにする。国内製造業の競争力向上につながるプロジェクトとして注目される。

富士通・NVIDIAも参戦——さらに広がる「フィジカルAI連合」

富士通×NVIDIA:協調制御基盤の開発へ

NEDOプロジェクトと並行して、2026年7月16日には新たな巨大連携が発表された。2026年7月16日、富士通は、ファナック、安川電機、川崎重工業の3社と、フィジカルAI分野における事業検討を開始すると発表した。NVIDIAのフィジカルAI、世界モデル、シミュレーション、ロボティクス技術を取り入れながら、デジタル空間と実世界をつなぐ協調制御基盤を構築し、製造、物流、ヘルスケアなど幅広い産業分野で社会実装を加速する。

富士通の次世代CPU「FUJITSU-MONAKA」やフィジカルAI向けOS「Fujitsu Kozuchi Physical OS」、NVIDIAのフィジカルAI開発ツール「Omniverse」「Isaac」などを組み合わせる。製造・物流管理システムや、医療情報システムと連携させ、各分野での導入を目指す。9月末から富士通のAIサーバやスーパーコンピュータの製造を担う笠島工場(石川県かほく市)に実装し、2026年内に提携する各社に展開する。

富士通はファナックと製造業、安川電機とは小売業や流通業、川崎重工とはヘルスケアの分野でそれぞれフィジカルAIの実用化に取り組む。エヌビディアがAIの技術基盤、富士通はCPUやソフトウエアを供給する。

ロードマップと展開計画

2026年9月末までに、富士通のAIサーバを生産する石川県かほく市の笠島工場に実装する。この成果を基に、2026年12月までに、ファナック、安川電機、川崎重工業の3社に提供し、ロボットと業務アプリケーションの垂直統合を図る。これをバージョン1とし、各社からのフィードバックをもとに、2027年にはバージョン2を開発して市場にリリースする計画だ。

富士通では、これを成長型プラットフォームと位置づけており、工場や物流、ヘルスケアでの実績をもとに、今後はほかの産業分野にも対象を広げていくという。

NVIDIAの「Cosmos Coalition」日本展開

NVIDIAは同日、同社が主導するフィジカルAI開発のための共同プロジェクト「Cosmos Coalition」を日本にも拡大すると発表した。富士通ら4社に加え、日立製作所、本田技術研究所、ソフトバンクなどが参画する。これにより、日本のフィジカルAIエコシステムは一気に産業横断的な広がりを見せることになる。

ビジネス視点:企業・経営者にとっての意味

「プログラムするロボット」から「教えられるロボット」へ

今回の発表は、単にロボットにAIを搭載する取り組みではない。富士通が協調制御基盤を整備し、ファナック、安川電機、川崎重工業のロボティクス技術と、NVIDIAのフィジカルAIスタックを組み合わせることで、現場ごとに異なるロボットや設備、業務システムを横断的につなごうとするものだ。製造業の生産性向上に加え、物流の省人化、ヘルスケア領域での業務支援など、適用範囲は広い。

企業経営の観点から見ると、このプロジェクトが持つ意義は3点に整理できる。

  1. 初期投資の低減:共通データ基盤により、個社ごとにシステムをゼロから構築する必要がなくなり、中小製造業でもフィジカルAI導入のコストが現実的な水準に下がることが期待される。
  2. 多品種少量生産への対応力向上:自然言語指示でロボットが動作を習得できるようになれば、段取り替えの時間・コストが大幅に削減でき、柔軟な生産体制が実現する。
  3. 「ソブリンAI」の確保:今回の構想では、「ソブリン性」という考え方をロボットやフィジカルAIの協調制御基盤にも広げる。製造現場のセンシティブなデータを自国企業の管理下で安全に運用できる点は、サプライチェーンのセキュリティを重視する企業にとって大きなメリットとなる。

オープン基盤戦略の狙い

賛同する企業や研究機関に対して、Fujitsu Kozuchi Physical OSをオープンなプラットフォームとして提供。フィジカルAIを社会のあらゆる領域に拡大し、社会全体の実装を目指す。これは、特定企業のクローズドなエコシステムではなく、日本の産業界全体が参加できる「共有インフラ」として設計されていることを示しており、業界スタンダードの主導権を握る戦略とも見られる。

消費者・生活者視点:私たちの暮らしへの影響

フィジカルAIの社会実装は、製造業の工場内だけにとどまらない。日常生活の様々な場面にも変化をもたらす可能性がある。

  • 物流・宅配:安川電機が連携する小売・流通分野でのフィジカルAI導入により、倉庫内のピッキング作業や仕分けが自動化され、配送コストの低下や翌日配達の安定化につながる可能性がある。
  • 医療・介護:川崎重工が注力するヘルスケア分野では、手術支援ロボットや介護補助ロボットへのフィジカルAI適用が進み、医療従事者の負担軽減や地方での医療サービス向上が期待される。
  • 食品・日用品の安定供給:食品製造現場でのデータ収集が進めば、食品の品質検査や梱包作業の自動化が加速し、食品ロス削減と安定供給の両立に貢献する見込みだ。
  • 製品価格への影響:生産効率の向上によるコスト削減が消費者価格に反映される可能性がある一方、技術導入期には製品価格への影響は限定的と見られる。

フィジカルAIは、ロボットや各種設備が状況を把握し、最適な動作を自律的に判断して実行することで、作業の自動化、生産性の向上、品質の安定化、そして新たなサービス創出を可能にするものだ。これらは中長期的に、消費者が享受できる製品・サービスの質と多様性を大きく向上させると見られる。

専門家・業界トップの見解

NVIDIAジェンスン・フアンCEO:「次の産業革命もMade in Japan」

フアン氏は、「匠」「カイゼン」「かんばん」「現場」といった日本発の考え方が世界の製造業を変えてきたと紹介し、「Made in Japanとは、世界最高水準の品質と精密さを意味する」と高く評価した。さらに、ファナックのナノメートル単位の位置決め技術、安川電機の高精度エンコーダ、川崎重工の繰り返し精度を例に挙げ、「これらは世界でも実現が困難な技術だ」と称賛した。

さらにフアン氏は、「15年に及ぶ研究を経て、フィジカルAIの時代が到来した」と宣言。NVIDIAが開発してきた世界モデル「Cosmos」、デジタルツイン基盤「Omniverse」、ロボットの学習環境を支えるIsaacやNewton、ロボット上でAIを動かすJetsonなど、フルスタックの技術基盤を紹介した。

ファナックのサーボはDNAの鎖よりも小さい1nm単位で位置決めを行い、安川電機のエンコーダーは1回転あたり6700万点を分解し、人間の目では到底見分けられないほどの精度を実現している。また、川崎重工業のロボットアームは、100分の1ミリメートルの精度で、同じ動作を何時間も、何年にもわたって繰り返している。これらの世界最高水準の精度技術に、フィジカルAIが組み合わさることで、これまで不可能だった自律的な精密作業が実現すると期待されている。

富士通CEOのビジョン

富士通の時田隆仁社長CEO、ファナックの山口賢治社長兼CEO、安川電機の小川昌寛副会長執行役員、川崎重工業の橋本康彦社長執行役員、NVIDIA創業者兼CEOのジェンスン・フアン氏が登壇した。日本を代表するロボットメーカー3社と富士通、NVIDIAが、フィジカルAIの社会実装に向けた構想を語った。

「ロボット産業界をリードするファナック、安川電機、川崎重工業と共に事業検討を開始できることを大変心強く、また喜ばしく思います。各社が有する世界トップレベルのロボット制御技術と当社のデジタル技術と高信頼のコンピューティング技術を結集することで、製造、物流、ヘルスケアをはじめとする幅広い産業分野で、人とロボットが協働する新たな社会基盤を創出していきます」

——富士通株式会社(公式プレスリリースより)

国際比較:世界のフィジカルAI開発競争

米国:テック企業主導の巨大エコシステム

フィジカルAI開発競争は世界規模で激化している。米国ではGoogleが産業現場向けAIモデル「Gemini Robotics-ER 1.6」を発表し、Boston Dynamicsとも連携を開始。OpenAIも物理世界に対応したロボットAI開発に注力しているほか、Tesla(テスラ)は人型ロボット「Optimus」の量産化を進めている。NVIDIAのCosmos Coalitionには世界中の企業が参画しており、グローバルな競争の舞台が整いつつある。

中国:国家主導の大規模投資

中国でも人型ロボット・フィジカルAIへの国家的な投資が急拡大している。中国政府はロボット産業を重要戦略分野と位置づけ、多数のスタートアップが政府支援を受けて急成長している。ユニツリー(Unitree)などの企業が低コストの人型ロボットを投入し、グローバル市場での存在感を高めている。

日本の差別化戦略:「精度」と「信頼性」

今回の日本勢の連携が際立つのは、単なるAI技術の適用ではなく、長年培ってきた世界最高水準の機械制御精度とAIを融合させる点にある。NVIDIAのフアン氏が称賛したように、ナノメートル単位の制御技術は中国や米国のスタートアップが容易に真似できるものではなく、これが日本勢の最大の競争優位となる可能性がある。

今後の展望:注目すべきポイント

短期(2026年内)

  • 笠島工場への実装:富士通の笠島工場(石川県かほく市)への協調制御基盤実装(2026年9月末予定)が、実用性を検証する最初の試金石となる。
  • 5000時間データ収集の開始:NEDOプロジェクトの製造現場データ収集が本格化し、VTLAモデルのトレーニングデータ蓄積が進む。
  • ロボット3社への基盤展開:ファナック、安川電機、川崎重工業への「バージョン1」展開(2026年12月予定)により、各社製品への統合が開始される。

中長期(2027年以降)

  • 中小製造業への波及:NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは、大手の製造業だけでなく、日本の「ものづくり」を担う中小企業でもこうした高性能なロボットが役立つとの考えを示した。オープンプラットフォーム戦略により、裾野の広い中小製造業への普及が見込まれる。
  • ヘルスケア・物流への本格展開:製造分野での成果をもとに、医療・介護・物流分野への適用が拡大し、社会インフラとしてのフィジカルAIが具体化されていく見通しだ。
  • 国際標準の主導権争い:VTLAモデルやFujitsu Kozuchi Physical OSがデファクトスタンダードとして国際的に普及するかどうかが、日本のロボット産業の長期的な競争力を左右する重要な焦点となる。

まとめ:この動向を理解するための3つのポイント

  • 🤝 競合3社の「異例の連合」:川崎重工・ファナック・安川電機というライバル関係にある国内ロボット大手3社が、NEDOから最大20億円の支援を受け、触覚データを含む5000時間分の共通データセット構築に乗り出す。ハードウェアに依存しない汎用的なフィジカルAI基盤の形成が目標だ。
  • 🌐 富士通・NVIDIAを加えた産業横断エコシステム:2026年7月16日には富士通がNVIDIAの技術を活用した協調制御基盤の開発を発表し、製造・物流・ヘルスケアをカバーする巨大なフィジカルAIエコシステムが形成されつつある。Cosmos Coalition拡大で日立・本田・ソフトバンクも参画し、「日本版フィジカルAI連合」が急速に結集している。
  • 🏭 「プログラムするロボット」から「教えるロボット」への転換:自然言語指示でロボットが作業を習得し、未知の環境にも適応できるようになることで、ティーチング作業の大幅削減、多品種少量生産への対応、熟練技能の継承問題解決が現実味を帯びてくる。日本のものづくりが次の産業革命を牽引するかが問われる局面を迎えている。

参考情報


著者プロフィール

伊東雄歩(いとうゆうほ) / ゆぽゆぽ

株式会社ウォーカー代表取締役 / MENSA会員 / NLPマスタープラクティショナー

IQ130超のADHD経営者。「社会不適合」ゆえに会社員を2年で挫折し、フリーランスを経由せずいきなり起業。訴訟4回、2000万円の損失、役員の裏切り、オフショア開発の地獄を乗り越え10年生き残る。心理学・教育学に1000万円投資し、独自の「成長力学」を確立。現在は生成AI教育に注力し、「3年を2日に変える」AIプログラミング2Daysキャンプを全国展開中。AIフレンズコミュニティを運営。

夢は「世界征服」——世界の常識を変え、新しい価値観を提示すること。

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