なぜ今、発電所一体型データセンターが日本の国家戦略になるのか
生成AI(人工知能)の爆発的な普及が、日本のエネルギーとデジタルインフラに根本的な変革を迫っている。データセンターを新設しようとしても「電力供給開始まで10年待ち」といわれる地域が出るなど、電力不足はAI投資の最大の障壁となりつつある。こうした中、国内発電最大手JERAが打ち出した「発電所一体型データセンター構想」は、エネルギー安全保障とデジタル競争力強化を一挙に解決し得る切り札として、国家レベルの注目を集めている。
本記事では、JERAが推進するこの先進モデルの全貌、国内外のパートナー連携、そして企業・生活者への影響を多角的に解説する。
JERAの「ビハインド・ザ・メーター」構想とは
「ビハインド・ザ・メーター」とは、発電所の構内にデータセンターを直接建設し、送電網を介さずに電力を供給するモデルだ。
JERAはデータセンターの近くにガス火力を建設したり、既存のガス火力の隣にデータセンターを誘致したりすることを検討している。個別企業との取引で、データセンターと同じ敷地内に発電所を設置し電気を供給する「オンサイトPPA(電力購入契約)」を締結するビジネスモデルなどを想定している。敷地内での電力供給なら送電線の新設は不要で、短期間での整備が可能になる。
JERAの奥田久栄社長は、「電力需要の増加に迅速に対応できるガス火力の重要性はさらに増す」と明言しており、同社は老朽化した一部の部品を交換して発電所の寿命を延ばしたり、部品を追加して出力を増強したりすることも検討するという。
JERAの強みとポテンシャル
JERAは2015年に東京電力と中部電力の火力事業を統合して誕生した合弁会社だ。東京電力と中部電力の全火力発電所の所有・運営を引き継ぎ、国内約6,000万kWの発電資産を有し、日本の総発電量の約3割を担う国内最大の発電事業者となった。
特に注目すべきは、同社の地理的優位性だ。東京電力と中部電力の火力事業を継承したため、火力発電所は首都圏と中部圏に多数集中しており、都市部にデータセンターを建設したい企業のニーズと合致している。また、全国26カ所の火力発電所を保有し、その7〜8割がガス火力(LNG)で、LNG取引量は世界最大級を誇る。
- 国内発電資産:約6,000万kW
- 国内発電シェア:約30%
- 国内火力発電所数:全国26カ所(7〜8割がガス火力)
- 海外発電資産:約1,000万kW(米国6カ所を含む)
- 国内ガス火力の発電量シェア:最大35%
さくらインターネット・Amazonとの連携が加速
JERAの構想は、具体的なパートナーシップとして次々と実を結んでいる。
さくらインターネットとの基本合意(2025年6月)
さくらインターネットとJERAは2025年6月5日、東京湾内をはじめとしたJERAの既存のLNG火力発電所構内に、さくらインターネットのデータセンターを建設する検討を始めると発表し、基本合意書を締結した。
この連携の特徴は、単なる電力供給にとどまらない点だ。両社は今後、発電所構内にデータセンターを設ける際の諸条件、-162度というLNGの超低温を活用したデータセンターへの「冷熱供給」、将来的な脱炭素化などについて検討を進める。LNGの冷熱を利用することで、データセンターの冷却コストを大幅に削減できる可能性があり、電力と冷熱を一体的に提供するイノベーティブなモデルとして注目されている。
両社は「電力と通信の連携(ワット・ビット連携)」の推進を通じて、国内の「デジタル赤字の解消」「電力インフラの効率的な活用」「脱炭素への貢献」「日本の産業競争力の強化」の実現を目指すとしている。
Amazonとの連携強化(2026年2月)
発電大手のJERAは、米Amazon.comと連携強化を図る基本合意書を締結した。発電所の保全業務を効率化するためAmazonのAIを活用し、AIの普及で需要が高まるAmazonのデータセンター向けに環境負荷の少ない電力供給を進める方針だ。具体的には、洋上風力発電や水素・アンモニアによる火力発電、CO₂を回収して地中に貯留する「CCS」の活用なども検討している。
政府のGX戦略とワット・ビット連携政策
JERAの構想は、政府の政策とも強く連動している。2026年2月に閣議決定された「GX2040ビジョン」では、将来的に脱炭素化される火力発電所などを含む電力インフラの近くに、データセンターを立地する方針が明記された。
データセンターの整備と電力供給を一体で考える「ワット・ビット連携」は、地方創生を掲げる政権の下で推進されており、GX戦略地域の本公募(2026年2月締め切り)には、データセンター集積型について100件近い提案が寄せられた。北海道や九州など電力の供給余力が大きい地域が注目されている。
ビジネス視点:企業・経営者にとっての意味
JERA発電所一体型DC構想は、さまざまな業界の企業に対して重要な意味を持つ。
データセンター事業者・クラウド企業
- 電力確保の大幅短縮:従来「10年待ち」といわれた電力供給開始が、ガス火力の短工期・柔軟性を活かして大幅に早期化できる見込み
- オンサイトPPAによるコスト安定化:長距離送電ロスの排除と固定電力コストの予見性向上
- 冷熱利用による省エネ:LNG冷熱を冷却に活用することで、PUE(電力使用効率)を大幅に改善できる可能性
- 国内立地の選択肢拡大:首都圏近郊での大規模DC立地が現実的となり、海外移転リスクを回避
製造業・金融・医療などの一般企業
- 国内AIインフラの拡充により、クラウドサービスや生成AIサービスの供給安定性と低コスト化が期待される
- 経済安全保障の観点から、国内にデータを置く選択肢が強化される
- 省電力・脱炭素型インフラの普及により、企業のScope 2排出量削減に貢献
消費者・生活者視点:一般の人々への影響
この構想は、一般市民の日常生活にも間接的ながら大きな影響をもたらす可能性がある。
- AIサービスの安定供給:国内AIインフラの整備により、ChatGPTのような生成AIや音声アシスタント、医療AIの安定した利用環境が整う
- 電力需給の安定化:データセンター向け専用電力網の分離により、一般家庭への電力供給の安定性が向上する可能性
- デジタル赤字の解消:現在、日本は海外クラウドへの支払いでデジタル分野の貿易赤字が拡大しているが、国内DCの整備はこの解消に寄与する
- 地域雇用の創出:発電所周辺地域でのDC関連雇用や関連産業の集積が期待される
専門家・業界関係者の見解
「(常時通信を行う都市型の)推論用ではなく(大量のデータを処理・蓄積する)学習用のデータセンターとなる。その場合、海外での建設と競合する。学習用は米国での需要が大きいと感じている」 — JERAの多和淳也副社長(日経ビジネスより)
「2022年のウクライナ危機以降、各国で国内回帰が進んでいる。そうした中で、今後増えていく世界の電力需要のうち半分は、米日欧など先進国が占めるとみられている」 — JERAのスティーブ・ウィン常務執行役員(日経ビジネスより)
一方で課題も指摘されている。国内の大型データセンター需要は現状、首都圏や関西圏が9割を占めており、テック大手は通信のレイテンシー(遅延)や保守・運用コストを考慮すると地方分散に慎重な姿勢を見せている。複数の国内大手データセンター幹部からは、「結局はGAFAの需要次第」という声も漏れる。
国際比較:世界で加速する「発電所一体型」モデル
JERAの構想は、グローバルトレンドとも軌を一にしている。
米国のスターゲート計画
米OpenAIやソフトバンクグループがAIインフラに巨額資金を投じる「スターゲート計画」。その1号案件となる米テキサス州のデータセンターでは、敷地内に計約36万kWのガス火力発電機が新設された。米Metaはガス事業者と米オハイオ州のデータセンター敷地内に計約40万kWのガス火力発電機を建設中だ。送電網整備の順番待ちを回避し、直接電気を引き込むこのモデルは北米で急速に拡大している。
アジアの動向
米Googleは2025年10月、今後5年間にわたり総額150億ドルをインドに投じ、「AIハブ」と称する大規模データセンターを建設すると発表した。東南アジアでも電気代高騰などの対策として建設要件が厳格化したシンガポールに代わり、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナムなどで建設ラッシュが起こっており、日本との競争が激化している。GAFAだけで2026年の設備投資額は100兆円規模に増える見通しとされる。
JERAの海外展開
JERAはニュージャージー州のリンデンガス火力発電所(ニューヨーク市の電力需要の約1割を担う)の50%の権益を保有するなど全米6カ所の発電所に出資しており、このノウハウをビハインド・ザ・メーターモデルの海外展開にも活用する構えだ。さらに2025年10月には米ハワイ州と脱炭素化に向けた戦略的パートナーシップ協定を締結するなど、海外でのプレゼンスも着実に高めている。
今後の展望と注目ポイント
JERAの発電所一体型データセンター構想は、今後以下の観点で注視が必要だ。
- 具体的な建設地の決定:首都圏の千葉火力(千葉市)が有力候補と見られており、立地決定の発表が待たれる。東京湾岸に集中するJERAのLNG火力発電所周辺エリアへの整備が先行すると予想される。
- 脱炭素化の進捗:ガス火力は石炭火力に比べCO₂排出量が約半分だが、2050年の「ゼロエミッション」目標に向けた水素・アンモニア混焼やCCSとの組み合わせが鍵となる。
- GAFAの本格参入:現時点でAWSは東京・大阪の大都市圏のみを対象としているが、電力確保の目処が立てばJERA拠点での立地に動く可能性がある。
- 経済安全保障の文脈:AIデータ処理を国内に置くことは、機密性の高い産業・行政データの安全管理という観点でも極めて重要な政策課題となっている。
- 電力価格への影響:生成AIの過熱で減少傾向が続いていた日本の電力需要は2023年度以降増加に転じており、2034年度までの10年間に6.2%増加する見通しとなっている。大規模DCの集積が電力価格に与える影響も今後の焦点となる。
まとめ
- 🔑 「電力10年待ち」を突破:JERAがLNGガス火力発電所とデータセンターを一体化する「ビハインド・ザ・メーター」モデルを推進。短工期・安定電力・冷熱利用のトリプルメリットで、AI急拡大による電力危機を解消する戦略が動き出した。
- 🔑 国家安全保障と産業競争力の同時実現:さくらインターネット・Amazonとの提携が相次ぎ実現。政府のGX2040ビジョンとも連動し、「デジタル赤字の解消」と「AIインフラの国内完結」を目指す経済安保の中核戦略となっている。
- 🔑 グローバル競争の最前線:米スターゲート計画やGoogleのインド展開など、発電所一体型DCは世界標準となりつつある。JERAが日米で蓄積してきた発電ノウハウと地理的アセットが、日本のAI産業の競争力を左右する局面に入った。
参考情報
- 日経ビジネス:電力10年待ちを覆す JERAの発電所一体型データセンター、千葉火力が有力か
- 日経ビジネス:GAFAが急ぐデータセンター建設 先進国で電力需要増「発電所一体型」面展開へ
- 日経ビジネス:GAFAが急ぐデータセンター建設 JERAが首都圏で「火力発電一体型」計画
- 日本経済新聞:JERA、データセンター向けガス火力発電へ AI過熱受け
- さくらインターネット公式:JERAとの発電所構内データセンター新設に向けた基本合意書の締結について
- 日経BP:さくらインターネット、JERAのLNG火力発電所構内にデータセンター新設検討
- 読売新聞(Yahoo!ニュース):JERA、米アマゾンとAI活用やデータセンター向け電力供給で連携強化の基本合意
- Wikipedia:JERA(英語版)
- JERA GROUP INTEGRATED REPORT 2024(事業取り組み)
著者プロフィール
伊東雄歩(いとうゆうほ) / ゆぽゆぽ
株式会社ウォーカー代表取締役 / MENSA会員 / NLPマスタープラクティショナー
IQ130超のADHD経営者。「社会不適合」ゆえに会社員を2年で挫折し、フリーランスを経由せずいきなり起業。訴訟4回、2000万円の損失、役員の裏切り、オフショア開発の地獄を乗り越え10年生き残る。心理学・教育学に1000万円投資し、独自の「成長力学」を確立。現在は生成AI教育に注力し、「3年を2日に変える」AIプログラミング2Daysキャンプを全国展開中。AIフレンズコミュニティを運営。
夢は「世界征服」——世界の常識を変え、新しい価値観を提示すること。
